"Nine Lives" Out Now!!(part 1)
2008-04-28

というわけで、待ちに待った5年ぶりのニューアルバム『Nine Lives』がついに発売となりました。国内盤まではまだひと月あるので微妙にフライング気味ですが…。
当初2月のMSG公演に合わせて発売される予定がここまで遅れ、ヤキモキさせられはしました。しかし!待った甲斐がありました。
当初は『About Time』の続編を作るつもりだった、と語っていたスティーヴでしたが、前作の良さはキープしつつ、新鮮な要素もあり、2003年以降の好調が持続されている感じ。『About Time』を最高傑作と思っていた人も考えが変わるかもしれません。もっとも比較すること自体ナンセンスですけどね。

現在のツアーメンバー、ジョゼー・ネト(Gt)、リチャード・ベイリー(Dr)、カール・ヴァンデン・ボッシュ(Perc)、ポール・ブース(Sax,Fl&Kbd)の4人とのセッションが曲作りの基本となっているらしく、考えようによってはスティーヴを含めた5人のバンドによるアルバムという見方もできるかもしれません。そんなところもちょっとトラフィック的。
前作にひきつづき、もちろん全てハモンドによるベースパートなので、このバンドにしかありえない独自の音像ができあがっているといえます。
前作ではスティーヴ自身の歌詞がいくつかありましたし、奥さんのユージニアや、他にも何人かのソングライティング・パートナーがいましたが、今回は元メトロのピーター・ゴッドウィンが全ての歌詞を書いていて、前作よりも曲ごとにストーリー性を持った曲が多い、という印象もあります。スティーヴとしてもコンセプトアルバムというよりは、9つの異なった命を持つ曲を集めた短編集的なアルバム、という意識があるようです。
今回も基本はハモンドB3を大フィーチャーしたアルバムではあるものの、前作ではまったくギターを弾かなかったスティーヴがいきなりブルージーなアコースティック・ギターを披露するオープニング・ナンバー "I'm Not Drowning"がなんとも意表をついています。このファンキーでメリハリの効いたスティーヴの歌を聴くと、並々ならぬ気合いが伝わってきてゾクゾクしてしまいますね〜!この曲のみピーター・ゴッドウィンの歌詞が先に出来、スティーヴが後から曲をつけたそう。ロバート・ジョンスンがまだ生きていて、チェルシーあたりで歌っていたら、というのがテーマの歌詞らしいです。
このスティーヴのアコギ・プレイですが、キーはBフラット。先だってRolling Stone誌のサイトでも見られた弾き語り映像(現在は消されてしまいましたが、YouTubeで復活したので貼っておきます。ちなみに日本盤に付属するDVDはこのドキュメンタリーの字幕付き30分越えのフル・ヴァージョン!)では、レギュラー・チューニングを全弦半音下げにして、Bのフォームでプレイしているのが確認できました。
しかしこれがクセモノ! あくまで主観ですが普通にギターだけ弾いている人だと、あまり発想しないような弾き方。この曲調であれば、レギュラー・チューニングなら開放弦をルート音に使えるEやAのキーで弾きたくなるところでしょう。ところがこれを5弦2フレットをルート音にしたB7(#9)のフォームを基本型に、解放弦なども織り交ぜて、おまけにフラット・ピッキングで不思議なムードのブルーズにしてしまうあたりは何とも驚かされます。映像を見ているとラクに弾いているように見えるし、変なフィンガリングにも見えませんが(普通にEを弾いているように見える)、一応ギター歴30ウン年の私も試してみたところ、スムーズに弾くのはかなり難しいです…。
全曲についてコメントしたいところですが、書いているととんでもない長さになりそうなので(笑)次回に続く…。
なお、現在入手できる『Nine Lives』のバリエーションはこんなにあります。
困ったもんです…。
Steve Winwood(1977)
2008-04-23

スティーヴの記念すべきファースト・ソロ・アルバムは77年の6月、トラフィック解散後3年経って発売されました。3年の間、サルサ界のスーパー・グループ、ファニア・オールスターズの『Delicate and Jumpy』やツトム・ヤマシタのプロジェクト『GO』(いずれも76年)への参加など、ちょっと意外なところに顔を出していたスティーヴでしたが、その成果はこのファースト・アルバムにも反映されているんじゃないかと思います。
当時はソウルやファンク等の音楽がかなり市民権を得てきて、ディスコが世の中を席巻するようになり、どことなくブラック・ミュージックの本質が見えづらくなってきた時期でした。ロックは大産業になってフリートウッド・マックやピーター・フランプトンが特大ヒットしてましたし、日本で人気があった洋楽は私の記憶ではキッスやクィーンやエアロスミスあたり。さらにあの頃はセックス・ピストルズが登場して、パンクとかいうとんでもなくアブナイ音楽があるらしい!なんていうのが新聞などにも載ったおぼえもありますが、そんなちょっと谷間な?時代だったわけです。しかしこのアルバムのサウンドはそんな混乱した音楽トレンドなどどこ吹く風の、黒人音楽をさらに深く咀嚼しまくった、29歳になったばかりの青年がやる音楽にしてはえらく大人っぽい、控えめながらスティーヴ流ソウル・ミュージックがバッチリ表現された名盤だったのです。
最初の"Hold On"はスローなトレモロがかかったローズ・ピアノの響きが時代を匂わせる都会的なサウンド。いきなり夜っぽいムードといいましょうか。ドラムスのアンディ・ニューマークとベースのウィリー・ウィークスの白人黒人コンビは、ジョージ・ハリスンの『Dark Horse』やロン・ウッドの『Now Look』 などで絶妙なグルーヴを聴かせていたリズム隊ですが、この二人をバックにスティーヴがキーボードやギター、コーラスなどを重ねています。トラフィックの"Graveyard People"で初めて手にしたシンセサイザーをここでもかなり活用していて、その後何年かのスティーヴのトレードマークとなる音色も聴けます。
"Time is Running Out"も実に聴き応えのあるパーカッシブなファンキー・サウンド。Bメロの転調がまたスティーヴらしいヒネりが効いてます。リズム隊一丸となったグルーヴが強力ですが、あくまでクールなんですね。これもアンディ&ウィリーのリズム隊ですが、ジム・キャパルディ(作詞も4曲担当)とリーバップ・クワク・バーのトラフィック組がパーカッション部隊として参加してますし、コーラスでクレジットされているニコルという人はスティーヴの最初の奥さんですね。これもギターとキーボード類はスティーヴが全部やっています。
"Midland Maniac"はスティーヴ一人の多重録音。たぶんドラムはこれが初披露だと思いますが、さほど難しいことはやっていないものの、ハイハットワークなどかなりこなれたプレイ。実は昔から結構やっていたんじゃないかと思わせるマルチプレイヤーぶりです。最初バラード調で始まりますが(ここも部分転調とかコード進行凝ってます)、途中すこしレゲエがかった8ビートになったりもします。このあたりはさすが60年代からジャマイカ音楽を紹介していたアイランド・レーベルに在籍していたスティーヴならではといいましょうか。
"Vacant Chair"ではボンゾ・ドッグ・バンドのヴィヴィアン・スタンシャルが歌詞を手がけています。彼はこのつながりで次作以降も詞を提供することになります。
イギリスの名ファンクグループ、ココモからアラン・スペナー(B)とジョン・サスウェル(Dr)のリズム隊が参加。アランはグリース・バンドにいた人ですね。なぜこの曲だけリズム隊を替えたのかちょっと気になりますが。
ちょっとほのぼのムードで始まりますが、中盤のギターソロでマイナーの緊張感ある雰囲気になるのが渋いところ。ここで聴けるスティーヴのギターソロは絶品!たった7小節と短いし、難しいテクニックも全く使っていませんが、音色といい無駄のないフレーズの組み立てといい、彼のキャリア中でも5本指に入る、非常によく歌っている名ソロだと思います。例のシンセもばっちり入っていますね。シンセつながりなのか、3年後の大ヒットシングル、"While You See A Chance"のB面に収められた曲でもあります。
"Lucks Inn"は6/8拍子のイントロから6/4拍子の本編、さらにサビは4/4拍子へ、とちょっとトリッキーなリズム技を効かせたラテン・テイストもあるナンバー。歌に入ってからの転調や、歌い終わりの方の部分転調などはスティーヴならではのアレンジメントの妙。アンディ&ウィリーにリーバップを加えたリズムセクションの強力な魅力もはっきりわかります。
蛇足ですが、これと"Time is Running Out"のちょっと難解な緊張感みたいなものが、新作『Nine Lives』で復活していている、と思うのは私だけでしょうか…。"Raging Sea"などを聴くと、ナルホド、という感じがあると思うんですが。
最後の"Let Me Make Something In Your Life"はスケールの大きなピアノ・バラード。これもアンディ&ウィリーをバックに気持ち良さそうに歌っていますが、思いの外セクションが多くて複雑なつくりだったりして、この時代のスティーヴの作曲傾向がわかります。当時プログレ系とかも案外聴いてたのかもしれませんね。ここでもまた終盤に素晴らしいギターソロを弾いています。
当時の流行りものとはかなり距離のある音楽だったとも言えるし、少し難解なイメージの曲もあったためなのか、残念ながらここからヒットは生まれませんでした。同じ「難解」でもヒット組のイエスやピンク・フロイドのように派手な仕掛けには欠けていましたし。しかしファンの間では非常に愛されているアルバムで、スティーヴのソロの中ではこれが一番好き、という人も少なくないはず。試行錯誤は見えてきますが、やはりタダモノではない!という瞬間が山ほどある名アルバムです。
翌78年にスティーヴは初のソロ・コンサートを行っていますが、それについてはまたいずれ。
About Time/Steve Winwood
2008-01-04
2003年の6月、55歳になったスティーヴ・ウィンウッドは6年ぶり8枚目となる新作をリリース。それがこの『About Time』というアルバムでした。前作の『Junction 7』でのナラダ・マイケル・ウォルデン制作によるきらびやかなポップ路線は、80年代の名作『Back In The Highlife』の焼き直しとも言える内容でしたが、97年という時代にはどこかよそよそしく、私は違和感を感じていました。かつて天才少年と謳われたスティーヴも、こうした音に落ち着いて余生を過ごすのか、と一抹の寂しさを覚えたのも事実。しかし2003年になって、彼がラテン系のミュージシャンとのセッションで久々の新作を作っているらしい、という噂を聞いたときは「おや?」と感じるものがありました。70年代のトラフィックはリーバップ・クワク・バーのパーカッションをたっぷりフィーチャーするバンドでしたし、解散後にはファニア・オールスターズに客演したり、アフリカのミュージシャンとアルバムを作ったりした彼のこと、そのあたりの取り入れ方は年季が入ってます。そしてフタを開けてみれば、この『About Time』は、それまでの長年の試行錯誤が実を結んだともいえる、スティーヴのソロ作の中でも屈指の傑作だったのです!
まずこのアルバムの特徴は音数の少なさです。コアとなっているのはスティーヴのハモンドB3オルガン(なんとギターは一切弾いていません!)、ブラジル出身のギタリスト、ジョゼー・ネトのギター、そしてスティーヴのソロ作のいくつかや94年のトラフィック再編ツアーにも参加していたドラマーのウォルフレイド・レイエス・ジュニアの3人。つまりベースのいないトリオ編成で、スティーヴがハモンドのベース・ペダルや左手を駆使して、ベースパートも演奏しながら、ほぼ一発録りで録音してしまう、というもの。
スティーヴの頭の中にはジミー・スミスなどオルガン・ジャズのトリオ・サウンドをロックに流用してみるというコンセプトがあったようですが、68年のデイヴ・メイスンが抜けていたころや、70年に再始動した頃のトラフィックではジム・キャパルディのドラムとクリス・ウッドのサックス&フルートとのトリオでライヴを展開していたスティーヴのこと、プレイにあまり違和感はなかったはず。そしてこれが極めて斬新なロック・サウンドとして響き渡ったというわけです。私も最初にスティーヴのオフィシャルサイトで"Different Light"と"Cigano(For the Gypsies)"のサンプルを試聴したときの驚きは忘れられません。エレクトリック・ガット・ギターを歪ませて弾いてしまうジョゼー・ネトのスタイルも、スティーヴの音楽にはこれまでになかったもの。彼は今やスティーヴの片腕的な存在として信頼を得ているようです。
曲によっては、今のアメリカのジャム・バンド・シーンの隆盛の中心にいるサックス奏者カール・デンソン、ジェフ・ベック等のセッションでも知られ、このところのスティーヴのライヴではウォリー・レイエスに変わってドラム・キットに座っているリチャード・ベイリー、そしてリーバップを彷彿とさせるパーカッション奏者のカール・ヴァンデン・ボッシュの3人も彩りを添え、スティーヴの新しい音楽に素晴らしい効果を与えています。
"Cigano(For the Gypsies)"と"Domingo Morning"、"Silvia(Who Is She)"の3曲はもともとジョゼー・ネトのソロアルバムに収められていたインスト曲で、これにスティーヴが作詞して歌をつけたもの。それまで作詞にあまり積極的でないと言われていたスティーヴとしては画期的なコラボレーションですし、亡き父親へのトリビュート・ソングらしい"Take It To The Final Hour"も作曲はアンソニー・クロフォードとなっています。作詞に取り組むこともこのアルバムでのスティーヴの新たなトライアルだったのかもしれません。
スティーヴのソロアルバムの中でカヴァー曲がとりあげられるのは前作の"Family Affair"に続いて2度目ですが、ティミー・トーマスの73年のヒット"Why Can't We Live Together"は、前回よりはるかに自然な仕上がり。オリジナルのリズムボックスとオルガンのみのサウンドの雰囲気を残しつつ、ラテン・ソウル的な解釈が素晴らしい出来。かなり反戦的なメッセージソングでもあり、紛争の絶えない世相を反映したとしても、こうした歌をスティーヴが取り上げることも、かなりめずらしいことです。
それにしても今あらためて聴いてみても、曲の良さ、演奏の瑞々しさは特筆もの。若い頃のがむしゃらなハイトーンは陰を潜めたスティーヴのヴォーカルですが、円熟の味わいと他の誰にも真似のできない独自のフレージングに溜息の連続です。彼が過去に残してきた数々の音楽の中でも、ひときわ輝きをもった傑作であることは間違いないでしょう。
このアルバムの発表後、ツアーをコンスタントにこなしはじめたスティーヴは、メンバーチェンジはあっても、基本的にこのアルバムのコンセプトを継承したバンド編成にこだわってきました。ソロ時代の" Higher Love"や"Back In The Highlife Again"、"Talking Back To The Night"などもこの編成に合った形にリアレンジしていましたし、トラフィック時代の"Empty Pages"や"Rainmaker"も94年の再結成時に比べてもはるかに深化した形の「トラフィック的」表現で魅せてくれます。どんなライヴをしていたのかは2003年に出演したライヴ番組『Sound Stage』のDVDで見ることが出来、お薦めです。
スティーヴは昨年、コロンビア・レコードと契約を結びました。近づいてきた2月のエリック・クラプトンとのライヴに併せてリリースされる予定の新作『9 Lives』でも『About Time』路線は継承されていると言われており、ますます楽しみ。いったいどんなサウンドになっているのでしょうか。






