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About Time/Steve Winwood

743fb3db.jpg2003年の6月、55歳になったスティーヴ・ウィンウッドは6年ぶり8枚目となる新作をリリース。それがこの『About Time』というアルバムでした。前作の『Junction 7』でのナラダ・マイケル・ウォルデン制作によるきらびやかなポップ路線は、80年代の名作『Back In The Highlife』の焼き直しとも言える内容でしたが、97年という時代にはどこかよそよそしく、私は違和感を感じていました。かつて天才少年と謳われたスティーヴも、こうした音に落ち着いて余生を過ごすのか、と一抹の寂しさを覚えたのも事実。

しかし2003年になって、彼がラテン系のミュージシャンとのセッションで久々の新作を作っているらしい、という噂を聞いたときは「おや?」と感じるものがありました。70年代のトラフィックはリーバップ・クワク・バーのパーカッションをたっぷりフィーチャーするバンドでしたし、解散後にはファニア・オールスターズに客演したり、アフリカのミュージシャンとアルバムを作ったりした彼のこと、そのあたりの取り入れ方は年季が入ってます。そしてフタを開けてみれば、この『About Time』は、それまでの長年の試行錯誤が実を結んだともいえる、スティーヴのソロ作の中でも屈指の傑作だったのです!

まずこのアルバムの特徴は音数の少なさです。コアとなっているのはスティーヴのハモンドB3オルガン(なんとギターは一切弾いていません!)、ブラジル出身のギタリスト、ジョゼー・ネトのギター、そしてスティーヴのソロ作のいくつかや94年のトラフィック再編ツアーにも参加していたドラマーのウォルフレイド・レイエス・ジュニアの3人。つまりベースのいないトリオ編成で、スティーヴがハモンドのベース・ペダルや左手を駆使して、ベースパートも演奏しながら、ほぼ一発録りで録音してしまう、というもの。

スティーヴの頭の中にはジミー・スミスなどオルガン・ジャズのトリオ・サウンドをロックに流用してみるというコンセプトがあったようですが、68年のデイヴ・メイスンが抜けていたころや、70年に再始動した頃のトラフィックではジム・キャパルディのドラムとクリス・ウッドのサックス&フルートとのトリオでライヴを展開していたスティーヴのこと、プレイにあまり違和感はなかったはず。そしてこれが極めて斬新なロック・サウンドとして響き渡ったというわけです。私も最初にスティーヴのオフィシャルサイトで"Different Light"と"Cigano(For the Gypsies)"のサンプルを試聴したときの驚きは忘れられません。エレクトリック・ガット・ギターを歪ませて弾いてしまうジョゼー・ネトのスタイルも、スティーヴの音楽にはこれまでになかったもの。彼は今やスティーヴの片腕的な存在として信頼を得ているようです。

曲によっては、今のアメリカのジャム・バンド・シーンの隆盛の中心にいるサックス奏者カール・デンソン、ジェフ・ベック等のセッションでも知られ、このところのスティーヴのライヴではウォリー・レイエスに変わってドラム・キットに座っているリチャード・ベイリー、そしてリーバップを彷彿とさせるパーカッション奏者のカール・ヴァンデン・ボッシュの3人も彩りを添え、スティーヴの新しい音楽に素晴らしい効果を与えています。

"Cigano(For the Gypsies)"と"Domingo Morning"、"Silvia(Who Is She)"の3曲はもともとジョゼー・ネトのソロアルバムに収められていたインスト曲で、これにスティーヴが作詞して歌をつけたもの。それまで作詞にあまり積極的でないと言われていたスティーヴとしては画期的なコラボレーションですし、亡き父親へのトリビュート・ソングらしい"Take It To The Final Hour"も作曲はアンソニー・クロフォードとなっています。作詞に取り組むこともこのアルバムでのスティーヴの新たなトライアルだったのかもしれません。

スティーヴのソロアルバムの中でカヴァー曲がとりあげられるのは前作の"Family Affair"に続いて2度目ですが、ティミー・トーマスの73年のヒット"Why Can't We Live Together"は、前回よりはるかに自然な仕上がり。オリジナルのリズムボックスとオルガンのみのサウンドの雰囲気を残しつつ、ラテン・ソウル的な解釈が素晴らしい出来。かなり反戦的なメッセージソングでもあり、紛争の絶えない世相を反映したとしても、こうした歌をスティーヴが取り上げることも、かなりめずらしいことです。



それにしても今あらためて聴いてみても、曲の良さ、演奏の瑞々しさは特筆もの。若い頃のがむしゃらなハイトーンは陰を潜めたスティーヴのヴォーカルですが、円熟の味わいと他の誰にも真似のできない独自のフレージングに溜息の連続です。彼が過去に残してきた数々の音楽の中でも、ひときわ輝きをもった傑作であることは間違いないでしょう。

このアルバムの発表後、ツアーをコンスタントにこなしはじめたスティーヴは、メンバーチェンジはあっても、基本的にこのアルバムのコンセプトを継承したバンド編成にこだわってきました。ソロ時代の" Higher Love"や"Back In The Highlife Again"、"Talking Back To The Night"などもこの編成に合った形にリアレンジしていましたし、トラフィック時代の"Empty Pages"や"Rainmaker"も94年の再結成時に比べてもはるかに深化した形の「トラフィック的」表現で魅せてくれます。どんなライヴをしていたのかは2003年に出演したライヴ番組『Sound Stage』のDVDで見ることが出来、お薦めです。

スティーヴは昨年、コロンビア・レコードと契約を結びました。近づいてきた2月のエリック・クラプトンとのライヴに併せてリリースされる予定の新作『9 Lives』でも『About Time』路線は継承されていると言われており、ますます楽しみ。いったいどんなサウンドになっているのでしょうか。


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かっこいい本物の音楽が大好きな中年です。
ロックの世界をSW中心に考えてみる。
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