On The Road/Traffic

1973年にリリースされた『On The Road』は、同年リリースのスタジオ・アルバム『Shoot Out At The Fantasy Factory』を受けて行われたツアーから、ドイツ公演(当時は西ドイツですね)の模様を収録したライヴ・アルバムです。メンバーは『Shoot Out~』の録音に参加した面子と同じ。スティーヴ・ウィンウッド、ジム・キャパルディ、クリス・ウッドのオリジナル・メンバーに、お馴染みリーバップ・クワク・バー(パーカッション)、アラバマはマッスル・ショールズの3人の名プレイヤー、ロジャー・ホーキンス(ドラムス)、デイヴィッド・フッド(ベース)、バリー・ベケット(キーボード)という布陣。
トラフィックのライヴを収録したアルバムは、過去にも『Last Exit』『Welcome To The Canteen』がありましたが、前者はLPのB面2曲、後者は正しくはトラフィック名義ではなく、単に参加メンバー全員の名前を列記したクレジットになっていたので、『On The Road』は純然たるライヴ作としては初めてのものといえます。
このアルバムの特徴を一言で言うと、「演奏が長い」でしょうか。1曲平均10分前後、ラストの"Low Spark Of High-heeled Boys"に至っては17分以上もあり、LPでは2枚組だったにもかかわらず7曲しか入っていません。とにかく7人のインタープレイ中心の内容で、スティーヴのヴォーカルそのものも少しセーブしながら歌っているようにも聞こえます。ただし、この時期のスティーヴはかなり重症の腹膜炎を煩って手術を受けた後で、その影響はあったかもしれません。見た目も顔色が悪くかなり痩せてしまっていますし。
超絶テクニックのプレイヤーがいるわけではないトラフィックですから、誰かのソロが特別に大フィーチャーされる展開はない(あっても、そういう感じはしない)のですが、マッスル・ショールズのリズム隊の気持ちよいグルーヴに乗せられてか、全員が実にのびのびプレイしているのは印象的。あまりに気持ち良すぎて、ついつい長くなってしまったようなナチュラルなヴァイヴに満ちています。冒頭の"Glad/ Freedom Rider"こそちょっとテンポが速すぎて軽く聞こえてしまいますが、その他は堂々たる演奏。絶好調です。
演奏内容としてはやはりクリス・ウッドのサックスやフルートが独特の"トラフィック節"の重要な部分を占めているのが確認できます。それと、この時期のジム・キャパルディはドラムを叩かずにフロントのマイクの前でタンバリンやマラカス、時にリード・ヴォーカルをとったり、踊ったり(笑)していました。さほど音の面には表れない部分かもしれませんが、ライヴ・パフォーマンス全体のノリにけっこう推進力を加えていたんじゃないかと思います。かつて、この時期のサンタモニカでのライヴ映像のすばらしいヴィデオ作品が出ていました。ブログの最初の写真がそのパッケージですが、ここでも髪を振り乱してタンバリンを振るジムの姿はなかなかカッコ良くてインパクト大でした。DVD化が待たれるソフトですが、今はYouTubeでもいくつか見られます。アルバムのラストでもハイライトになっている"Low Spark Of High-heeled Boys"をどうぞ。スタジオ・アルバムではジム・ゴードンがドラムを叩いていましたが、こちらのロジャー・ホーキンス版では彼の特徴あるドラミングが存分に楽しめる快演になっています。
スティーヴはギターをけっこう沢山弾いていますが、これぞスティーヴ!というプレイが収められています。名バラード、"(Sometimes I feel so) Uninspired"の間奏ギター・ソロがそれで、ワウ・ペダルを半開きにしたようなけっこう暴力的なトーンを使った泣き叫ぶようなフレージングが印象的。これがエリック・クラプトンだともっと流麗なものになりそうですが、スティーヴは独特の間合いをとりながら絶妙な音使いで素晴らしいソロに仕上げています。ギター・テクニックの点では彼よりうまいプレイヤーは星の数ほどいるでしょうが、このソロはスティーヴにしか弾けないものの代表でしょう。"Shoot out at the Fantasy Factory"でもクリスと絡みながらワイルドなギターを弾きまくっていて、こちらも聴きものになっています。ドイツの音楽番組ミュージックラーデン出演時のすばらしい映像が残っていますので、これも貼っておきます。ここではジムとロジャーのダブル・ドラムスですね。
(追記)
さらに以前アップされたものの削除されていた、"Evening Blue"が復活。めでたし!
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