When The Eagle Flies/Traffic

74年のトラフィックは、前年までメンバーとして参加していたアラバマはマッスルショールズ・スタジオのミュージシャン達、すなわちロジャー・ホーキンス、ディヴィッド・フッド、バリー・ベケットの3人がメンバーからはずれ、スティーヴと並んで、タンバリンやマラカスを手にフロントに立っていたジム・キャパルディが再びドラム・セットに戻っています。これにもちろんサックス&フルートのクリス・ウッド、そしてベーシストにはジャズ・ファンク系のバンド、ゴンザレスにいたロスコー・ジー(なんと17歳!)を迎えています。ジャケットには描かれていませんが、リーバップ・クワク・バーも参加しています。ただ、アルバム発売前の74年の春に始まったツアーは当初リーバップを加えた5人編成でしたが、途中で離脱。6~7月にかけてのアルバム制作をはさみ、4人でツアーを続け、最終的に10月にラスト・コンサートを行うに至るわけです。
オープニングの"Something New"はトラフィックにしては珍しい軽やかなポップスですが、スティーヴも少しはセールスを意識したのかな?と思わせるもの。ただ、チャートを狙うにはちょっと奥ゆかしい感じもします。実際にシングルになったのは"Walking In The Wind"で、目立ったアクションはなかったものの、これもちょっとしたポップセンスが効いた佳曲。94年の再編ツアーでも何度か演奏されたようです。"Memories Of A Rock 'n' Rolla"もじみじみとしたパートとリズミックなパートとの対比がそのあとのソロに繋がる作風。この3曲は60年代のソウル・ミュージックの匂いがしますが、トラフィックは、それまではさほどソウル色を前面に出す曲を作っていなかったので(意識的?スペンサー・デイヴィス・グループでさんざんやってきたせいかもしれません)、これはちょっとした変化に聞こえます。
ただバンドとしての本領が爆発しているのは"Dream Gerrard"と"Graveyard People"の2曲でしょう。スペイシーなインタープレイが、哀愁溢れる前者、不穏なムードの後者のいずれにも存分にフィーチャーされています。ロスコーのジャズっぽいテクニカルなプレイも、それまでのトラフィックにはなかったし、スティーヴは初めてシンセサイザーも弾いています。ソロがどうこうというより、トラフィックそのもの、としか言いようのない空気感がすばらしい。私としてはこの2曲の強力な出来がアルバムの価値を高めていると感じます。
”Love"は少し未完成セッションにも聞こえる曲ですが、"Low Spark Of Highheeled Boys"をさらに地味にしたような曲。最後のタイトルナンバーはあてどなく転調していく曲調が、まさに鷲の飛び立つ光景と重なります。繰り返しのない長いワンコーラスが続き、最後にもう一度はじまりのフレーズが出てきて終わる、という独特の構成を持っています。
それにしても、とにかく地味なアルバム。スティーヴも初期のようなシャウトを聴かせることもなく、淡々と悟ったような歌いぶりなので、とっつきにくいイメージもあるかもしれません。しかし聴けば聴くほど世界が広がっていくような、実に深々と心に響いてくるアルバムです。最初はダメでも何度も何度も繰り返し聴き込めば、ほんとうに手放せないものになるんじゃないかと思います。
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