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Winwood Capaldi & Wood

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トラフィックは時期によってたくさんのメンバーが出入りしたバンドでしたが、実質はトリオ編成のバンドだったと思います。もちろんスティーヴ・ウィンウッド、ジム・キャパルディ、クリス・ウッドの3人ですね。実質その他のメンツはサポート・メンバーと考えて差し支えないんじゃないかと思います。

あまり多くないものの、この3人だけでライヴを行っていた時期が2度あります。68年あたりにデイヴ・メイスンが脱退、再加入を繰り返していた頃と、ブラインド・フェイスが終了し、70年にソロ・アルバムの制作を始めたスティーヴが、ジムとクリスを呼び寄せ、結局トラフィックの再結成となった時期です。このアルバム『John Barleycorn Must Die』は、トラフィックの歴史の中で、唯一3人だけで作られたアルバムです。この名盤についてはまた別枠でじっくり書こうと思います。

トリオ編成のトラフィックでは、まず、ジムはドラム(時にパーカション)で固定。しかしスティーヴがオルガンやエレクトリック・ピアノ、ギターの持ち替え、サックス&フルートのクリスはスティーヴがギターに回るときなどはキーボード類も担当。ベースはいないわけですから、スティーヴがオルガンの左手やベースペダルを駆使してベースラインを引き出し、クリスもキーボードのときは同様にベースパートを担当していました。要はなんとかかんとか3人でやりくりしながらライヴを展開していたわけです。

しかし、実をいうと本当にピュアなトラフィックの魅力は、この時期のライヴ・サウンドにあると私は感じます。オフィシャルの音源で残されているものだと、『Last Exit』のB面の(CDだと後半ですね)ミュージカル曲の"Feelin' Good"と、ボビー・ブランドの"Blind Man"というカバー2曲を聴いていただければわかると思います。

編成はオルガン、サックス&フルート、ドラムス、というわけで、まずこんな編成でライヴをやっていたメジャーなロックバンドは他にいないでしょう。エレキギターもエレキベースもいないんですから! 
とにかく音響的にはスカスカ。しかし充分すぎるほど音楽的だし、ファンキーだし、なんともいえない緊張感と不思議なグルーヴに満ちていて、私も最初は異様な感じがしたものですが、強力なスティーヴのヴォーカルにもぐいぐい引っ張られ、これはスゴイ!と思うようになりました。
トリオ期のライヴは、YouTubeでライヴ映像が楽しめます。これはスティーヴがギターを弾いていますが、"Stranger To Himself"のライヴ演奏はかなり珍しいので貴重です。
それから、"40000 headmen"のスタジオライヴ映像の強力なのがあります。これぞ!という素晴らしさ。なんとスタジオヴァージョンより1音キーを上げているのがすごい。スティーヴの最強の部類に入る歌が聴けます!
Traffic - 40,000 Headmen



70年というと、3年ほど前、NHK-FMのライブビートという番組で、英BBCの秘蔵ライヴ音源が放送されたことがありましたが、あれもトリオ編成でした。いつかオフィシャルリリースしてほしいものです。

トリオ編成ではないですが、11月18日のフィルモア・イーストのものがConcert Vaultというサイトで、フルサイズで聴くことができます。ここではリック・グレッチがベースを弾いていますが、なんと発売直後に回収されたといわれる幻のライヴアルバム『Live November 70』と同音源のようです(!!)。

この時の経験があればこそ、2003年の大名作『About Time』もあるわけですが、実はスティーヴの長いキャリアを検証すると、スタジオ録音では意外にベースギターの入っていないものが多いのです。80年代のソロ・アルバムはシンセ・ベースがほとんど。94年の再編トラフィックの『Far From Home』もベースはスティーヴによるサンプリング・シンセでした。スティーヴ・ウィンウッドという人は、良い音楽作り、というものが頭にあるだけで、ロックバンドの常識のようなものにはハナから頓着してこなかった人なんじゃないでしょうか。このあたりも彼の特異な個性で、本当に自由人だなと思います。

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LONDON HYDE PARK 1969/Blind Faith


さて、スティーヴ・ウィンウッド・ファンには非常に重大なお知らせです。
明日19日、NHK-BS2にて、午後11:00より「黄金の洋楽ライブ」という番組で、ブラインド・フェイスのデビュー・コンサートの模様が放送されます。快挙!

1969年のはじめより、当初はトラフィックを解散したスティーヴ・ウィンウッド、クリームを解散したエリック・クラプトンとジンジャー・ベイカーはかなり気楽な感じのセッションを楽しんでいたようですが、やはりこの顔ぶれが集まっていると知っては、放っておくわけにはいかない周囲の人間が沢山いたわけで、すわスーパーグループ結成、即レコーディング、ツアー、というマネージメントの思惑が彼らを苦しめることになります。3人で進行していたアルバム制作でしたが、途中からベーシスト&ヴァイオリニストとして元ファミリーのリック・グレッチを加えた4人組でレコーディングを続行。そしてまだアルバムの出ていなかった6月7日、ロンドンはハイド・パークで行われたフリー・コンサートで、ブラインド・フェイスははじめて観衆の前に姿を現します。

デビュー・アルバムに収められた6曲のほか、ブルーズ・ナンバーの"Sleeping In The Ground"、トラフィックの"Means To The End"、そしてなぜかローリング・ストーンズの"Under My Thumb"のカヴァー、というのが当日のメニューですが、やはり初のライヴ演奏ということもあって、 特にエリックがかなり不安そうな表情を浮かべていますし、リック・グレッチのベースもややミスが目立ちます。ジンジャーはけっこうマイペースで、あいかわらずぶっ飛んだ演奏なのがすごいですが、スティーヴも荒さはあるものの声に爆発力があって、さすがまだ21歳の勢いを感じます。音程がいまいちな気もしますが、元々正確なピッチが売り、というタイプじゃないですし、屋外のコンサートのモニター環境は69年という時代背景を考えると、かなり劣悪なものだったことも想像されるので、これは仕方ないところ。そういった部分も含めて、これはとにかく大変歴史的価値のある記録だと思います。

このコンサート、一応DVDで発売済みですが、手に入るものはリージョン1。日本国内で再生するにはプレイヤーのリージョン・コードを変更せねばならず、非常に面倒でしたので、オンエアは大変歓迎すべき事件!
未見の方はぜひご覧になってください。

このコンサートを皮切りに、ブラインド・フェイスはスカンジナビア・ツアーを敢行。演奏内容は徐々に上向きになっていきます。8月のアメリカツアーではスティーヴがギターを弾くことが増えたり、"Sunshine Of Your Love"や"Crossroads"なども新しい解釈でとりあげられ、ブート等で残されている音源でもスティーヴとエリックの掛け合いヴォーカルが聴ける等、興味深い演奏が聴けます。しかしやはりオリジナルをじっくり練り上げる時間を与えてもらえず、ツアーに明け暮れなければならなかったバンド内にはさまざまな不協和音が起こったことは想像に難くないわけで、このままブラインド・フェイスは空中分解。非常に惜しい、というより他ありません。アメリカツアー中の楽屋で、アポロ11号の月面着陸をテレビで見ていたジンジャー・ベイカーは、その途中で出番を告げられたものの、「今歴史的瞬間なんだ!ライヴなんてやってられっか」と言ったかどうか定かではありませんが、演奏に出て行くのを渋った、なんてエピソードもあったようです。

ご承知のとおり、昨年スティーヴとエリックの2度の共演があり、熱演は心を打つものでしたが、「ブラインド・フェイス」という観点からすると時間が経ちすぎた、という印象は拭えませんでした…。
もちろん、2月25、26、28日のマジソン・スクエア・ガーデンの二人の公演はありますが、あくまで二人のコンサートとして接するのがいいのかもしれません。とはいえ、さらなる音楽的新展開があるのか、期待したいところです。



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On The Road/Traffic

santamonica1年遡りましょう。
1973年にリリースされた『On The Road』は、同年リリースのスタジオ・アルバム『Shoot Out At The Fantasy Factory』を受けて行われたツアーから、ドイツ公演(当時は西ドイツですね)の模様を収録したライヴ・アルバムです。メンバーは『Shoot Out~』の録音に参加した面子と同じ。スティーヴ・ウィンウッド、ジム・キャパルディ、クリス・ウッドのオリジナル・メンバーに、お馴染みリーバップ・クワク・バー(パーカッション)、アラバマはマッスル・ショールズの3人の名プレイヤー、ロジャー・ホーキンス(ドラムス)、デイヴィッド・フッド(ベース)、バリー・ベケット(キーボード)という布陣。

トラフィックのライヴを収録したアルバムは、過去にも『Last Exit』『Welcome To The Canteen』がありましたが、前者はLPのB面2曲、後者は正しくはトラフィック名義ではなく、単に参加メンバー全員の名前を列記したクレジットになっていたので、『On The Road』は純然たるライヴ作としては初めてのものといえます。

このアルバムの特徴を一言で言うと、「演奏が長い」でしょうか。1曲平均10分前後、ラストの"Low Spark Of High-heeled Boys"に至っては17分以上もあり、LPでは2枚組だったにもかかわらず7曲しか入っていません。とにかく7人のインタープレイ中心の内容で、スティーヴのヴォーカルそのものも少しセーブしながら歌っているようにも聞こえます。ただし、この時期のスティーヴはかなり重症の腹膜炎を煩って手術を受けた後で、その影響はあったかもしれません。見た目も顔色が悪くかなり痩せてしまっていますし。

超絶テクニックのプレイヤーがいるわけではないトラフィックですから、誰かのソロが特別に大フィーチャーされる展開はない(あっても、そういう感じはしない)のですが、マッスル・ショールズのリズム隊の気持ちよいグルーヴに乗せられてか、全員が実にのびのびプレイしているのは印象的。あまりに気持ち良すぎて、ついつい長くなってしまったようなナチュラルなヴァイヴに満ちています。冒頭の"Glad/ Freedom Rider"こそちょっとテンポが速すぎて軽く聞こえてしまいますが、その他は堂々たる演奏。絶好調です。

演奏内容としてはやはりクリス・ウッドのサックスやフルートが独特の"トラフィック節"の重要な部分を占めているのが確認できます。それと、この時期のジム・キャパルディはドラムを叩かずにフロントのマイクの前でタンバリンやマラカス、時にリード・ヴォーカルをとったり、踊ったり(笑)していました。さほど音の面には表れない部分かもしれませんが、ライヴ・パフォーマンス全体のノリにけっこう推進力を加えていたんじゃないかと思います。かつて、この時期のサンタモニカでのライヴ映像のすばらしいヴィデオ作品が出ていました。ブログの最初の写真がそのパッケージですが、ここでも髪を振り乱してタンバリンを振るジムの姿はなかなかカッコ良くてインパクト大でした。DVD化が待たれるソフトですが、今はYouTubeでもいくつか見られます。アルバムのラストでもハイライトになっている"Low Spark Of High-heeled Boys"をどうぞ。スタジオ・アルバムではジム・ゴードンがドラムを叩いていましたが、こちらのロジャー・ホーキンス版では彼の特徴あるドラミングが存分に楽しめる快演になっています。


スティーヴはギターをけっこう沢山弾いていますが、これぞスティーヴ!というプレイが収められています。名バラード、"(Sometimes I feel so) Uninspired"の間奏ギター・ソロがそれで、ワウ・ペダルを半開きにしたようなけっこう暴力的なトーンを使った泣き叫ぶようなフレージングが印象的。これがエリック・クラプトンだともっと流麗なものになりそうですが、スティーヴは独特の間合いをとりながら絶妙な音使いで素晴らしいソロに仕上げています。ギター・テクニックの点では彼よりうまいプレイヤーは星の数ほどいるでしょうが、このソロはスティーヴにしか弾けないものの代表でしょう。"Shoot out at the Fantasy Factory"でもクリスと絡みながらワイルドなギターを弾きまくっていて、こちらも聴きものになっています。ドイツの音楽番組ミュージックラーデン出演時のすばらしい映像が残っていますので、これも貼っておきます。ここではジムとロジャーのダブル・ドラムスですね。

(追記)
さらに以前アップされたものの削除されていた、"Evening Blue"が復活。めでたし!





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When The Eagle Flies/Traffic

3ee45aa3.jpgスティーヴ・ウィンウッドが率いていたトラフィックの作品は、初期のものこそ名盤の誉れ高いものが揃っていますが、後期のものになるほど取り上げられることが少ない気がします。特に1974年にラスト・アルバムとして出された『When The Eagle Flies』になると、よほどのファンでないと覚えていないかもしれません。しかし初期の頃の味わいとは違うものの、これぞトラフィック、という音楽が聴ける素晴らしい内容だと思います。

74年のトラフィックは、前年までメンバーとして参加していたアラバマはマッスルショールズ・スタジオのミュージシャン達、すなわちロジャー・ホーキンス、ディヴィッド・フッド、バリー・ベケットの3人がメンバーからはずれ、スティーヴと並んで、タンバリンやマラカスを手にフロントに立っていたジム・キャパルディが再びドラム・セットに戻っています。これにもちろんサックス&フルートのクリス・ウッド、そしてベーシストにはジャズ・ファンク系のバンド、ゴンザレスにいたロスコー・ジー(なんと17歳!)を迎えています。ジャケットには描かれていませんが、リーバップ・クワク・バーも参加しています。ただ、アルバム発売前の74年の春に始まったツアーは当初リーバップを加えた5人編成でしたが、途中で離脱。6~7月にかけてのアルバム制作をはさみ、4人でツアーを続け、最終的に10月にラスト・コンサートを行うに至るわけです。

オープニングの"Something New"はトラフィックにしては珍しい軽やかなポップスですが、スティーヴも少しはセールスを意識したのかな?と思わせるもの。ただ、チャートを狙うにはちょっと奥ゆかしい感じもします。実際にシングルになったのは"Walking In The Wind"で、目立ったアクションはなかったものの、これもちょっとしたポップセンスが効いた佳曲。94年の再編ツアーでも何度か演奏されたようです。"Memories Of A Rock 'n' Rolla"もじみじみとしたパートとリズミックなパートとの対比がそのあとのソロに繋がる作風。この3曲は60年代のソウル・ミュージックの匂いがしますが、トラフィックは、それまではさほどソウル色を前面に出す曲を作っていなかったので(意識的?スペンサー・デイヴィス・グループでさんざんやってきたせいかもしれません)、これはちょっとした変化に聞こえます。

ただバンドとしての本領が爆発しているのは"Dream Gerrard"と"Graveyard People"の2曲でしょう。スペイシーなインタープレイが、哀愁溢れる前者、不穏なムードの後者のいずれにも存分にフィーチャーされています。ロスコーのジャズっぽいテクニカルなプレイも、それまでのトラフィックにはなかったし、スティーヴは初めてシンセサイザーも弾いています。ソロがどうこうというより、トラフィックそのもの、としか言いようのない空気感がすばらしい。私としてはこの2曲の強力な出来がアルバムの価値を高めていると感じます。
”Love"は少し未完成セッションにも聞こえる曲ですが、"Low Spark Of Highheeled Boys"をさらに地味にしたような曲。最後のタイトルナンバーはあてどなく転調していく曲調が、まさに鷲の飛び立つ光景と重なります。繰り返しのない長いワンコーラスが続き、最後にもう一度はじまりのフレーズが出てきて終わる、という独特の構成を持っています。

それにしても、とにかく地味なアルバム。スティーヴも初期のようなシャウトを聴かせることもなく、淡々と悟ったような歌いぶりなので、とっつきにくいイメージもあるかもしれません。しかし聴けば聴くほど世界が広がっていくような、実に深々と心に響いてくるアルバムです。最初はダメでも何度も何度も繰り返し聴き込めば、ほんとうに手放せないものになるんじゃないかと思います。



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About Time/Steve Winwood

743fb3db.jpg2003年の6月、55歳になったスティーヴ・ウィンウッドは6年ぶり8枚目となる新作をリリース。それがこの『About Time』というアルバムでした。前作の『Junction 7』でのナラダ・マイケル・ウォルデン制作によるきらびやかなポップ路線は、80年代の名作『Back In The Highlife』の焼き直しとも言える内容でしたが、97年という時代にはどこかよそよそしく、私は違和感を感じていました。かつて天才少年と謳われたスティーヴも、こうした音に落ち着いて余生を過ごすのか、と一抹の寂しさを覚えたのも事実。

しかし2003年になって、彼がラテン系のミュージシャンとのセッションで久々の新作を作っているらしい、という噂を聞いたときは「おや?」と感じるものがありました。70年代のトラフィックはリーバップ・クワク・バーのパーカッションをたっぷりフィーチャーするバンドでしたし、解散後にはファニア・オールスターズに客演したり、アフリカのミュージシャンとアルバムを作ったりした彼のこと、そのあたりの取り入れ方は年季が入ってます。そしてフタを開けてみれば、この『About Time』は、それまでの長年の試行錯誤が実を結んだともいえる、スティーヴのソロ作の中でも屈指の傑作だったのです!

まずこのアルバムの特徴は音数の少なさです。コアとなっているのはスティーヴのハモンドB3オルガン(なんとギターは一切弾いていません!)、ブラジル出身のギタリスト、ジョゼー・ネトのギター、そしてスティーヴのソロ作のいくつかや94年のトラフィック再編ツアーにも参加していたドラマーのウォルフレイド・レイエス・ジュニアの3人。つまりベースのいないトリオ編成で、スティーヴがハモンドのベース・ペダルや左手を駆使して、ベースパートも演奏しながら、ほぼ一発録りで録音してしまう、というもの。

スティーヴの頭の中にはジミー・スミスなどオルガン・ジャズのトリオ・サウンドをロックに流用してみるというコンセプトがあったようですが、68年のデイヴ・メイスンが抜けていたころや、70年に再始動した頃のトラフィックではジム・キャパルディのドラムとクリス・ウッドのサックス&フルートとのトリオでライヴを展開していたスティーヴのこと、プレイにあまり違和感はなかったはず。そしてこれが極めて斬新なロック・サウンドとして響き渡ったというわけです。私も最初にスティーヴのオフィシャルサイトで"Different Light"と"Cigano(For the Gypsies)"のサンプルを試聴したときの驚きは忘れられません。エレクトリック・ガット・ギターを歪ませて弾いてしまうジョゼー・ネトのスタイルも、スティーヴの音楽にはこれまでになかったもの。彼は今やスティーヴの片腕的な存在として信頼を得ているようです。

曲によっては、今のアメリカのジャム・バンド・シーンの隆盛の中心にいるサックス奏者カール・デンソン、ジェフ・ベック等のセッションでも知られ、このところのスティーヴのライヴではウォリー・レイエスに変わってドラム・キットに座っているリチャード・ベイリー、そしてリーバップを彷彿とさせるパーカッション奏者のカール・ヴァンデン・ボッシュの3人も彩りを添え、スティーヴの新しい音楽に素晴らしい効果を与えています。

"Cigano(For the Gypsies)"と"Domingo Morning"、"Silvia(Who Is She)"の3曲はもともとジョゼー・ネトのソロアルバムに収められていたインスト曲で、これにスティーヴが作詞して歌をつけたもの。それまで作詞にあまり積極的でないと言われていたスティーヴとしては画期的なコラボレーションですし、亡き父親へのトリビュート・ソングらしい"Take It To The Final Hour"も作曲はアンソニー・クロフォードとなっています。作詞に取り組むこともこのアルバムでのスティーヴの新たなトライアルだったのかもしれません。

スティーヴのソロアルバムの中でカヴァー曲がとりあげられるのは前作の"Family Affair"に続いて2度目ですが、ティミー・トーマスの73年のヒット"Why Can't We Live Together"は、前回よりはるかに自然な仕上がり。オリジナルのリズムボックスとオルガンのみのサウンドの雰囲気を残しつつ、ラテン・ソウル的な解釈が素晴らしい出来。かなり反戦的なメッセージソングでもあり、紛争の絶えない世相を反映したとしても、こうした歌をスティーヴが取り上げることも、かなりめずらしいことです。



それにしても今あらためて聴いてみても、曲の良さ、演奏の瑞々しさは特筆もの。若い頃のがむしゃらなハイトーンは陰を潜めたスティーヴのヴォーカルですが、円熟の味わいと他の誰にも真似のできない独自のフレージングに溜息の連続です。彼が過去に残してきた数々の音楽の中でも、ひときわ輝きをもった傑作であることは間違いないでしょう。

このアルバムの発表後、ツアーをコンスタントにこなしはじめたスティーヴは、メンバーチェンジはあっても、基本的にこのアルバムのコンセプトを継承したバンド編成にこだわってきました。ソロ時代の" Higher Love"や"Back In The Highlife Again"、"Talking Back To The Night"などもこの編成に合った形にリアレンジしていましたし、トラフィック時代の"Empty Pages"や"Rainmaker"も94年の再結成時に比べてもはるかに深化した形の「トラフィック的」表現で魅せてくれます。どんなライヴをしていたのかは2003年に出演したライヴ番組『Sound Stage』のDVDで見ることが出来、お薦めです。

スティーヴは昨年、コロンビア・レコードと契約を結びました。近づいてきた2月のエリック・クラプトンとのライヴに併せてリリースされる予定の新作『9 Lives』でも『About Time』路線は継承されていると言われており、ますます楽しみ。いったいどんなサウンドになっているのでしょうか。


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プロフィール

fatpower

Author:fatpower
かっこいい本物の音楽が大好きな中年です。
ロックの世界をSW中心に考えてみる。
SWについて、もう好き勝手に、迷惑なほど語りますんで悪しからず。
過去記事にも後で気づいたことはガンガン追記、書き換えしまくるので不親切極まりないですが、自分のブログだしやりたい放題で行かせていただきますっ。


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